フラックスは、酸化膜の除去や濡れ性の向上に不可欠ですが、加熱条件や環境要因によって劣化(分解・揮発・反応性低下)や飛散(ミスト・スプラッタ)が起こると、はんだ付け品質に直結する不良を招きます。本記事では、現場で頻出する劣化・飛散の原因と、確実に効く改善策を整理します。
目次
フラックス劣化の主な原因
熱履歴(過加熱・過長時間)
プリヒートでの熱量過多やピーク近傍の滞留が長いと、活性成分が分解・揮発して反応性が低下。濡れ不足やイモはんだ、残渣の硬化を誘発します。
酸化雰囲気と風の影響
高流量の熱風は酸化を助長し、表面を早期に失活させます。上部側の強い風は局所乾燥を生み、ダレ・ブリッジ・残渣ムラの原因に。
塗布量・塗布ムラ
少なすぎると濡れ不足、多すぎると残渣増・汚染・ボイド増。スプレー角度・流量・搬送速度の管理不足も劣化と直結します。
保管・取り扱い不備
高温多湿・開封放置・異物混入は活性低下や化学変質を招き、印刷ムラや反応遅れの原因になります。
フラックス飛散(スプラッタ)のメカニズム
急激な昇温・溶剤の沸騰
プリヒート〜ソークでのランプアップが急すぎると、溶剤が沸騰・爆ぜてミスト化。微粒子がパッド外へ飛散し、ボール状残渣やブリッジを誘発します。
上部側の局所過熱
部品上面だけ先に高温化すると、表面張力が乱れて端部に集積→チップ立ち・濡れ不均一につながります。
過剰塗布と粘度低下
塗布量過多や粘度低下は流動性が上がり、加熱初期に流れ出して飛散・汚染を増加させます。
劣化・飛散が招く代表的不良
- 濡れ不良/イモはんだ/未はんだ
- はんだボール・微小ブリッジ・外観汚染
- 残渣の硬化・マイグレーション・絶縁低下
改善策:プロセス側の最適化
温度プロファイル最適化
- プリヒート:基板全体の均一昇温。ランプアップはおおむね1–3℃/秒を目安に急加熱を避ける。
- ソーク:活性化に必要な時間を確保しつつ、過長滞留での劣化を防ぐ。
- ピーク:合金融点+20〜40℃程度、TAL(液相以上時間)は過不足なく。
- クール:過度な急冷を避け、金属組織と外観を安定化。
加熱方式の見直し
- 熱風を抑えた加熱方式:上部の強風を抑えると、乾燥・酸化・飛散が減少し活性維持に有利。
- 熱風と遠赤外線の併用:部品・基板を穏やかに均一加熱でき、フラックスの分解を抑えつつ濡れ立ち上がりを安定化。
- 上下ヒーター配分:小型/熱容量小の部品は下部側からの熱供給を活用し、上面の局所過熱を回避。
雰囲気管理
必要に応じて窒素化で酸化抑制。上部ファンの回転数やゾーン風量は“必要最小限”に調整し、暴風を避けます。
改善策:材料・塗布・運用の最適化
フラックス特性の適合
- 耐熱性(プリヒート段階で反応性が失われにくい)
- 残渣特性(絶縁性・吸湿性・洗浄要否)
- 粘度・揮発挙動(印刷・ディップ・スプレー方式との整合)
塗布条件の管理
- 目標塗布量を規格化(ガーバー/パッド群ごとの最適値)。
- スプレーパターン・角度・流量・搬送速度のセットアップを点検。
- ステンシル/ノズルの定期清掃で目詰まりとムラを防止。
保管・ハンドリング
- 温湿度管理・先入れ先出し・開封後の使用期限を徹底。
- 異物・水分混入を避けるための密封保管と運搬容器管理。
トラブルシューティング(現場チェックリスト)
- ピーク前に表面が乾きすぎていないか(上部風量・ランプアップ過大)。
- ボールが端部に集中していないか(過剰塗布・急加熱)。
- 残渣が硬化・焦げ色になっていないか(滞留過長・ピーク過大)。
- 小型部品で立ち(マンハッタン)が増えていないか(上面局所過熱)。
まとめ
フラックスの劣化・飛散は、温度プロファイル・風量・材料特性・塗布条件の“ミスマッチ”で起こります。穏やかな均一加熱(熱風を抑えた方式/熱風+遠赤外線併用)、適切な雰囲気と塗布量、保管管理を組み合わせることで、濡れを安定させ不良率を着実に低減できます。