遠赤外線加熱と弱い熱風で実装品質を安定化するリフロー技術

記事の概要

多機種混流ラインでのリフロー実装では、基板ごとに条件を切り替える必要が生じ、生産効率や品質安定性が課題となります。

私が現場で重視しているのは、加熱の“当て方”です。
上部ヒーターだけで強い風を当てると、部品リードや小型チップだけが先に加熱され、基板全体の温度が追いつきません。

こうした状況を防ぐためには、下部から遠赤外線加熱を行い、上部は弱い熱風で穏やかに温度を支えることが重要です。 本記事では、遠赤外線の「床暖房効果」を活かし、基板全体の温度プロファイルを整える実践的な考え方を紹介します。

問題と理由

多機種を扱う生産ラインでは、基板の大きさ・厚み・部品構成が異なり、リフロー工程での熱伝達バランスが崩れやすくなります。
一般的に上部ヒーターの温度を高めて対応するケースが多いですが、これはフラックスへのダメージを増やす原因になります。 フラックスは加熱過程で酸化膜を除去し、はんだの濡れを助ける役割を持ちます。 しかし、過剰な熱風によってフラックスが短時間で揮発・劣化すると、濡れ性が不十分なまま固化してしまいます。

結果として、ランドの一部でボイドが残ったり、リード先端に未濡れが生じたりします。

もう一つの問題は、基板裏面の温度不足です。
上部からの加熱だけでは、基板中心部や裏面に十分な熱が届かず、温度分布が不均一になります。

この温度差がプロファイルごとの再現性を下げ、製品ごとに条件を細かく調整する必要が生まれます。

問題発生の原因

こうした不具合の多くは「上部過加熱」と「下部温度不足」の組み合わせで起こります。
上部ヒーターからの強い風は即効性がある反面、熱が表面層に偏りやすく、基板の内部や裏面には十分伝わりません。
結果として、上面部品のリード部分が過剰加熱される一方、裏面のランドは低温のまま残ります。

この状態では、フラックスの反応タイミングが位置によってずれ、濡れが進む場所と進まない場所が混在します。

さらに、風が強すぎるとフラックスが局所的に飛散し、化学的な還元反応が不完全になります。
つまり、熱量そのものよりも「熱をどのように与えるか」が品質を左右しているのです。

問題の解決方法

私が提案するのは、基板全体を穏やかに温める遠赤外線加熱を下部から行い、上部は弱い熱風で支える方法です。

これはいわば「床暖房効果」を応用した考え方で、基板を通じて内側から温度を上げることにより、ランドやパターンが自ら熱を蓄え、自然な熱伝導を生みます。
この構成では、上部ヒーターを過度に上げる必要がなく、フラックスの化学反応を理想的な時間で維持することができます。

重要なのは、下部ヒーターの温度を上部よりも高く設定することです。
これにより、下から供給される熱が基板全体に行き渡り、裏面からランドを支える“穏やかな加熱循環”が生まれます。
上部では弱い熱風を流すことで、対流を維持しつつフラックス表面を乾燥させすぎない環境を作ります。

この手法は、異なるサイズや構造の基板を扱う場合にも有効です。
加熱方式の本質を理解し、下部の遠赤外線による内部加熱と上部の穏やかな対流を両立させることで、各種基板の温度プロファイルを共通化しやすくなります。

結果として、リフロー条件の安定化と歩留まり改善が同時に実現できます。

まとめ

リフロー工程での品質は、温度設定の数値そのものよりも「熱の伝え方」によって決まります。
上部の強い風だけに頼らず、下部からの遠赤外線加熱で基板内部を温め、弱い熱風で表面を支えることで、フラックスの化学反応が安定します。
この“床暖房効果”を理解すれば、異なる基板条件でも安定したリフローが可能になります。
加熱の方向性を変えるだけで、温度プロファイル設計の考え方が根本から変わるはずです。
現場で再現できる方法として、ぜひ意識してみてください。