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ボイドの発生原因と対策:温度プロファイルと印刷・設計の総点検
リフロー後のはんだ内部に生じる空洞(ボイド)は、フィレット強度や熱抵抗・信頼性を低下させる代表的な不良です。本稿では、現場で頻発する要因をプロファイル/印刷・材料/設計の3視点で整理し、再現性のある是正手順を提示します。(図4-1〜図4-25参照)
1. ボイドのメカニズム
はんだペースト中の溶剤・フラックスが加熱で揮発→気化ガスが抜けられずトラップされるとボイドになります。プリヒートでフラックスが劣化(酸化・樹脂の粘化)すると、気泡の抜け道が作られず、図4-11〜4-14のように大きなボイドが残存します。逆に急激な加熱や上部ヒータの強風(ファン回転高すぎ)でも、局所過熱によりガスが一気に発生・封じ込められ、ボイドが増加しがちです(図4-15〜4-17)。
2. プロファイルが原因のケース
- プリヒート過多:滞留が長いとフラックスが熱劣化し、表面張力が失われてガスの排出性が低下(図4-12, 4-13)。
- 加熱勾配が急:急昇温で気化速度がフィレット形成に追いつかず、ガスが内包(図4-25)。
- 上部偏重・強風:上面からの熱風が強いとフラックスが飛散・酸化し、見た目の光沢が良くても内部のボイドが悪化(図4-51〜4-53相当)。
- 均熱(イコライジング)不足/過多:均熱が短いと溶剤が抜け切らず、長すぎるとフラックスが枯れてガス抜けが悪化。
推奨プロファイルの考え方
- 昇温勾配:1.0〜1.5 ℃/sを基準に、部品密度が高い基板は下部ヒータを活用して上下温度差を縮小。
- 均熱工程:溶剤の抜けを最優先に設定(目安60〜120秒)。フラックス臭の変化や重量減少率で過多・不足を見極め。
- 溶融保持時間(液相以上):40〜60秒を目安。長過ぎは劣化、短過ぎはガス残り。
- ファン:必要最小限。まずは下部ヒータで熱を入れ、上部の風量を下げる(図4-22〜4-24)。
3. 印刷・材料起因のケース
- 印刷過多/分布不良:ランド中央に厚肉が溜まるとガス抜け経路がなくなる。ウィンドウペイン開口や角R開口で中心を薄く。
- 粘度・溶剤バランス不適合:低沸点溶剤が多い/劣化したペーストで発生。ロット切替時は必ず試刷・重量測定。
- フラックス劣化:保管温度逸脱・長期滞留・強い熱風での前加熱で活性が失われ、濡れ性・排気性ともに悪化。
4. 設計・実装条件起因のケース
- ランド設計:大型パッドや密閉形状(QFNセンタパッド等)はボイドが溜まりやすい。周辺にリリーフ(ガス抜け溝)/ビア・イン・パッド(樹脂埋め推奨)を検討。
- 基板吸湿・汚染:含水基板は加熱時に水分が気化。プリベーク(105〜125℃×4〜8h)や洗浄で対策。
- 窒素雰囲気:酸化抑制で濡れ・表面流動が安定し、ボイド低減に有効(図4-33〜4-35に相当)。
5. すぐ効く現場対策(手順)
- 上部風量を一段下げる/下部ヒータを+10〜30℃(上下差の平準化)
- 均熱工程の再設計(短すぎ→延長、長すぎ→短縮)。臭気・重量・外観で確認。
- 溶融保持時間を40〜60秒帯に調整(速度で微調整)。
- 印刷配分の見直し(中央薄め・外周厚めの開口、チップは過多を削減)。
- ペースト/ロット確認(入庫日・保管温度・粘度・試刷重量)。
- 窒素化(可能ならppm低下)/プリベークの実施。
6. 症状別の“原因→対策”早見表
症状 | 主因 | 対策 |
---|---|---|
パッド中央に大型ボイド | 中央厚肉/均熱不足 | ウィンドウ開口/均熱延長/速度微減 |
光沢良いのにX線で多発 | 上部強風でフラックス劣化 | 上部風量↓・下部加熱↑・昇温緩和 |
QFNセンタパッドで面状ボイド | ガス抜け経路不足 | スリット開口・ビア樹脂埋め・窒素 |
チップ部品のサイドボール併発 | 過多印刷/過熱で飛散 | 開口縮小・上部温度/風量↓・下部活用 |
まとめ
ボイドは「見た目のフィレット光沢」では判断できません。プロファイル(昇温・均熱・溶融保持・上下配分・風量)→印刷配分→材料健全性→設計の順で因果を切り分け、X線で必ず結果確認。まずは上部風量を弱めて下部で温度を持ち上げる、均熱の適正化から着手すると改善が早いです。