濡れ性改善とブリッジ防止を両立する温度プロファイル最適化 ― フラックス劣化を抑える加熱設計

実装工程で頻発する濡れ性不良ブリッジは、単なる印刷条件や部品精度の問題ではなく、加熱プロファイル設計に起因するケースが多くあります。 特にプリヒート工程でのフラックス劣化は、濡れ不足やショートの根本的な原因です。

私は現場で、強い上部加熱によってフラックスが反応ピークを超え、はんだの流動が乱れる様子を幾度となく見てきました。
この記事では、濡れ性改善とブリッジ防止、さらに薄型基板への対応までを一貫して考慮した温度プロファイル最適化の実践法を解説します。

問題と理由

リフローにおける濡れ性不良は、ランドや部品リードにはんだが均一に広がらない現象です。 これは、プリヒート中にフラックスが過加熱により活性成分を失うことが主因です。

フラックスの劣化は、酸化膜除去反応を不完全にし、表面張力のバランスを崩します。
その結果、濡れ広がりが不十分になり、はんだの一部がリード間で橋を作るように連結しブリッジが発生します。

また、強い上部熱風を長時間当てると、部品表面と裏面の温度差が大きくなり、片側のみが早く濡れる「片寄り濡れ」が起こります。
これが、部品の立ち浮き、さらにはズレの原因になります。

問題発生の原因

不具合を引き起こす要因の多くは、上部ヒーターに熱が集中し、下部からの熱供給が不足している点にあります。 表面側のフラックスが一気に加熱されて反応を終え、ランド内部や裏面がまだ低温のまま残る状態では、濡れと表面張力のタイミングがずれてしまいます。

その結果、部品が引っ張られたように傾いたり、リード間で未溶融のはんだが残りブリッジを形成します。
また、長いプリヒート時間はフラックスの寿命を縮め、ランド上の残渣が硬化することで濡れ拡がりを妨げます。

さらに、薄型基板やFPCなど熱耐性の低い素材では、上部からの過剰な熱風が130℃前後で接着剤層を劣化させ、ランド剥離や変形を引き起こすケースも見られます。

問題の解決方法

最も効果的な対策は、上部の風量を抑え、下部からの遠赤外線加熱で基板全体を均一に温める構成です。 この「床暖房効果」によって、基板のランドやパターンを内側から加熱し、フラックスの化学反応を自然な速度で進行させることができます。

具体的には、下部ヒーターを上部よりも高めに設定し、裏面からじわじわと熱を供給します。
上部は弱い熱風で穏やかに加熱し、対流を維持しながらもフラックスの揮発を抑制します。

このバランスにより、フラックスの活性成分が保たれ、酸化膜除去が安定します。
はんだの濡れが均一化されることで、セルフアライメント効果が最大限に発揮され、部品の立ち・ずれが抑制されます。

また、薄型基板への対応としては、上部ヒーターの出力を抑えつつ、コンベア速度を適正化し短時間で加熱を完了させることが有効です。
熱ストレスを最小限に抑えながら、十分な濡れ性を確保できます。

まとめ

濡れ性不良やブリッジの発生は、単なる印刷や部品配置の問題ではなく、温度プロファイル設計そのものに原因があります。

上部加熱を強化するよりも、下部からの遠赤外線加熱で内側から基板を温め、上部は弱い熱風で支える――これが最も現場的で再現性の高い手法です。

プリヒート時間の短縮と加熱バランスの最適化によって、フラックス劣化を防ぎ、濡れ拡がりが均一になります。
さらに、薄い基板や耐熱性の低い素材でも、熱ストレスを抑えながら高い接合信頼性を確保できます。

温度プロファイルの最適化は、リフロー不良を未然に防ぐための最重要項目です。
「熱をどう伝えるか」を意識することで、濡れ・ブリッジ・浮きといった現場課題を根本から改善することができます。